サーキック解説

概要


サーキシズム(sarkiscism)とはSCPシェアワールド内に存在する宗教思想の一つであり、イオン信仰を中心としたいわゆる「肉のカルト」の総称である。歴史を辿れば紀元前1900年頃、ダエーバイト帝国北部で発生した奴隷反乱の首謀者イオンの伝えた諸文化を基に、アディ-ウム帝国で実践されていた宗教・生活様式が「原始サーキック・カルト(=アディトゥム)」である。そして紀元前1200年の大戦によるアディ-ウム帝国崩壊以後、元アディ-ウム民族の子孫達が作り上げた物が「ナルカ・カルト=プロト-サーキック・カルト」となる。そして歴史を経て起源17世紀カルパティア、つまり中央ヨーロッパにてとある貴族の一門が最古のプロト-サーキック・カルト「ソロモナリ」の文化に目を付けて発生したのがネオ-サーキック・カルトである。つまり、この時点で「サーキシズム」には
  • 直接的にイオンが伝え、アディ-ウム帝国で実践されていた原始サーキシズム
  • アディ-ウム帝国崩壊後に形成されたプロト・サーキシズム
  • プロト以前のサーキシズムの信仰を表面的に真似たネオ・サーキシズム

の3種類が含まれている。更に後ろ2つは個々の繋がりが希薄な為、サーキシズムは全くもって一枚岩ではないことに注意して貰いたい。プロト、ネオのそれぞれにおいてもコミュニティ毎の思想や伝承には差異が有り、「サーキシズム」「プロト-サーキシズム」などの言葉を用いて彼等個々の性質を理解するのは極めて乱暴な理解の仕方であると言える。

語彙


また、「ナルカ(Nälkä)」という語はサーキシストが用いる自身らの信仰とコミュニティを指す語である。1「サーキシズム」はギリシャ語のσάρξ2、つまり「肉」に由来する名称であり、ナルカ・カルト以外の人間、メハニズム(MEKHANE信奉者)の人間が使用していた蔑称である。ナルカ・カルトの大半はウラル語族に属する言語を使用し、その他に実際に居住する地域の言語を使用する。使用するウラル語は起源前のプロト-サーキシズム発生以降の外界との文化的な断絶の影響もあり、非常に古く、また独自な物も確認されている。その最たる物がγλῶσσαχάος3である。グロッサカオスは殆ど口を閉じたまま発音する、つまり人間の声帯では物理的に発声不可能な音も含む未知の言語体系である。この特徴は言語が根付く土地の地理的要因(温度・湿度・樹木などの障害物)により変化するという観点から見れば寒冷な地域での言語・方言の特徴とも局所的に一致しており、サーキシズムに見られる魔術的な肉体変化技術(hemomancy)4により信者が肉体的な限界を超えることで発生した特徴であるとも言える。

ダエーバイト


サーキック・カルトの説明として欠かせない物として、古代帝国ダエーバイトの解説を少々挟む事とする。まず、ダエーバイト帝国はSCPシェアワールドにて作られた存在である為、我々民間人の歴史には当然伝わっていないので聞き覚えのない方も安心して欲しい。ダエーバイト帝国のメタ的な発端はSCP-140 - 未完の年代記というダエーバイトの詳細な年代記である。SCP-140からの引用では、

ダエーバイト文化は全ての時代において、軍国主義、侵略傾向、祖先崇拝、多くの奴隷人口を持つ都市中枢、陰惨な人身御供、明らかに有効性を持つ秘跡儀式の実践、といった特徴を持ち続けました。

とある。ダエーバイト帝国の起源は南シベリアとされ、イオンによる奴隷反乱が紀元前19世紀に発生した事を鑑みれば最低でも紀元前20世紀頃には存在している。また、ダエーバイトは神聖貴族とされるダエーワにより支配されていた女帝国家でもある。ダエーワは人間では無い存在だと判明しており、その為長い期間ダエーバイトの国主は同一個人であるダエーワ1人であったとされる。

神格とサーキシズム


サーキシズムと関連深い神格存在として、ヤルダバオート(Jaldabaoth)とアルコーン(Archon)の存在が挙げられる。ヤルダバオートは人類の誕生にも関連する強大な神性であり、他の神格存在と比べても別格の存在ではあるものの、本能的な捕食と破壊を繰り返すだけの存在であり、知性は低いとされる。尤も単に規定次元の人類と異なる形式の知性を持っている可能性も否定はできないが。ヤルダバオートは人類の創造に関わり、その後何らかの経緯を経て人類を捕食しようとし、結果的にMEKHANE(壊れた神の教会の神)と争った事で封じられている。アルコーンは封印の直前にヤルダバオートにより生み出された6体の神格存在であり、不自由なヤルダバオートを解放する為に活動している。アルコーンは狡猾かつ悪性な存在であり、サーキシスト及びヤルダバオーティストを除けば、その存在を知る人類は概ね忌避している。アルコーンは不定期に人類と接触し、ヤルダバオートに由来する力/魔術を授けることで大規模な戦争や、アディウム帝国のような「肉の帝国」を創り出そうとしている。これらの行いは、奇跡論的(魔術的)視点から見た最もEVE(魔力のような物)を発生させる「殺人と性交」を人類に行わせることでEVEエネルギーを集めている、あるいは単にヤルダバオートやアルコーンへの信仰の形式5として機能することで間接的にヤルダバオートの復活に関係していると思われる。

原始サーキシズム


紀元前1900年以前においてユーラシア大陸の恐らく全土で覇権を握っていたダエーバイト帝国の都市アディトゥムにおいて、支配者であったダエーワの子孫の一人、イオンと言う名の男が存在した。ダエーバイト帝国は女系国家であり、ダエーワの血統とはいえ男であったイオンは奴隷として生きていたが、ある日イオンに天啓が降る。太古の神格にして人類の生みの親、ヤルダバオート(Jaldabaoth)の啓示である。イオンはヤルダバオートに従い、隷属下にあった民族をまとめ上げ、ヤルダバオートに由来する強大な力を持ってダエーバイトをも戦かせるアディ-ウム帝国を作り上げることとなった。アディ-ウム帝国ではイオンにより伝えられた儀式と魔術に関連する、現代の価値観では極めて非倫理的な文化体系が実践されていたが、強姦・食人・幼児性愛・殺人などのそれらは決して単なる悪趣味に基づいて行われていたわけではない。神格存在を念頭に置くなら、それらの儀式は(自覚は無いにせよ)彼等に力を与えていたヤルダバオートへの(恐らく)供物として行われていたと思われる。ヤルダバオートは元来暴力的な観念しか持たず、他の神格と同様に信仰を糧とする以上、サーキシズムの儀式は暴力的な形を持って行われていたヤルダバオート崇拝であったと予想される。この時点のサーキシズムの全貌は明らかにはなっていないが、恐らくは奴隷反乱が元ということもありカーストが殆ど存在しない多民族国家であったと予想される。ダエーバイトによりユーラシア大陸の全土から集められた「奴隷」は、救世主であり、生ける伝説たるイオンの信仰と儀式の実践を持って纏まることとなる。
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原始サーキック・カルトの拠点の1つ、ギャロス島の現在

アディトゥム(Adytum)


「アディトゥム」という名称については、恐らくは元来ダエーバイト帝国に存在していた都市国家の一つから取られていることがクラヴィゲル・オロクの聖人伝から伺える。これに似た単語としてアディウムという語が存在するが、これは恐らく当時の原始サーキックが持っていた国の名前だと思われる(サーキシズム-ハブに於ける書き方から)。つまり、「原始サーキック」と呼ばれる実際にイオンやクラヴィゲル達に率いられていた古代のヤルダバオーティズム(ここではヤルダバオートに由来する魔術の実践者の事とする/ヤルダバオート崇拝者という意味は含まない)の勢力名こそが「アディトゥム」であり、アディウムという名称はアディトゥムの国の名前であると予想できる。

起源


原始サーキックの起源は西シベリアとされている。この情報は言語学的な見地からほぼ確実であるとされている。実際、サーキックの大部分はロシアに存在しウラル語族の言語を使用している。更にその他の証拠から原始サーキックの祖地がウラル山脈であると推測できる。つまり、恐らくはイオンの出生地、或いは反乱運動初期の構成員であった奴隷達のルーツがウラル山脈に存在していると予想できる。また、クラヴィゲル・サアルンの聖人伝では「クルスト(Kurst)」と呼ばれるダエーバイトの領地がダエーバイト反乱運動の起源であると語られている。

大戦 


起源前1200年頃、ダエーバイトへの反乱運動から始まったアディトゥム勢力は発展を続け、アディ-ウム帝国と呼ばれる帝国を作り上げる。アディ-ウム帝国の規模は侵略による拡大を続け、西シベリア、コーカサス、アナトリア、バルカン、ミノア、トラキア、ダキア、レバントやメソポタミアの一部にアディトゥム信者が発生する6これに対抗したのは周辺諸国による連合であり、エジプト、ミケーネ(ギリシャ人)、ミノア、カナン、アッシリア、そしてメハニストが加入していた。大戦の様子はSCP-2406,SCP-2095で垣間見えるものの、その全貌は明らかになっていない。しかしながら、考古学的な資料は史上でも稀な規模の死者と範囲を表しているなど、超常存在の関連した戦争の過激さを物語っている。そしてこの大戦はアディ-ウム帝国、ダエーバイト帝国を崩壊させ、その他の国々も崩壊するか或いは文化・科学・技術の大量喪失を被った。これが現代において紀元前1200年のカタストロフとして知られる事象である。

プロト-サーキシズム


アディ-ウム帝国は崩壊し、生き残りの国民は各地に散ることとなった。そして形成されたのがプロト-サーキシズムである。プロト-サーカイトはルーツたるアディ-ウム帝国を失った流浪の民7であった為、彼等のアイデンティティは親から伝えられた原始サーキシズムの儀式と、民族としての繋がりが保証される自身のコミュニティが大部分を占める。つまり、プロトサーカイトの排他的、そして忌避的な文明への反応は、ハッキリと線引かれた「自分たち」と「外側」のラインの外側に位置している異物への反応としては至極自然である。実際にとあるプロト-サーキシストの証言ではプロト-サーキックにおける文明忌避が、文明という派手さが自身らの信仰を失わせてしまう魅力的な毒として捉えられている事が示されている。プロトサーキック・カルトのコミュニティは決して侵略などを望んでいるわけでは無く、ただ単に自分等の信仰を守り細々と生きる事のみが目的である。また、プロト-サーキシストが他者の前でプロト-サーキシズムの実践を避ける傾向は、プロト-サーキック・カルト発足当初の彼等が他民族からの攻撃から身を守る為の術だったのではないだろうか。「肉の魔術」は当時の大戦に参加した国々から忌避される存在であり、見つかって仕舞えば皆殺しにされたとしてもおかしくはない。8当初の彼等は他民族から信仰を隠し、恐怖に怯えながらそれでも信仰を残し続けたのだ。プロト-サーキック・カルトの性質の大部分は、彼等が(現在の我々の価値観から如何に禁忌的な信仰を持っていたにせよ)善良な民であった事を窺わせる。そして、彼等の信仰している物、つまりはプロトサーキシズムはアディ-ウム帝国時代の流れを汲んだ暴力的かつ非倫理的(現代の一般的な倫理に対して)な物である。しかし彼等にとってそれは「自然」な物9である。日本民族が豚も牛も平然と殺して食べるのと同様に、プロト・サーキック・カルトの構成員たちは人間を殺し・犯し・食べる。これは推測に過ぎないが、彼等のカニバリズムは殆どプロト-サーキック・カルトが存在する寒さの厳しい地域において民が生き延びる為の一つの手段であったと考えられる。また、プロト-サーキック・カルトの大部分に見られる考えには、一種の救世主思想の様な物が存在する。これは主に彼等の崇拝の対象となるイオンがいつの日か神格化を果たし、そして自分らを救世してくれるとする思想だ。

プロト-サーキック・カルト

ソロモナリ(Solomonari)


最古と考えられるプロト-サーキック・カルトは「ソロモナリ」と呼ばれるカルトである。「ソロモナリ」という名称は現実世界のトランシルバニア地方等でのルーマニア神話において"魔法使い"とされる集団の名前と共通している。ソロモナリはアディトゥム崩壊後、中央ヨーロッパのカルパティアに定着し、当時同地域に存在していた原トラキア人がダキア人に成る過程において同化していた。原トラキア人は紀元前1200年の大戦の際にアディトゥム側の勢力にも加わっており、もしかすればその当時から何らかの交流があった、あるいは原トラキア人の一部が原始サーキシストであったのかもしれない。また、原トラキア人がダエーバイト反乱運動に関わっていた可能性は低い。原トラキア人の起源は詳細には分からないものの、現在のブルガリアにおいて発見された紀元前3000年台の墓が原トラキア人の物だとされており、またソロモナリが誕生したカルパティアは既知のダエーバイトの占領範囲から少し外れている為だ。ソロモナリは最古でありながらも15世紀に名師フニャディ・ヤーノシュに滅ぼされるまで存在していたとされる。ソロモナリは隠遁する他の大部分のプロト・カルトとは異なり貴族との関係を匂わせるなど強い影響力を持っていた。事実、ネオ-サーキシズムと称される革新的かつ異端のサーキシズムの誕生には、ソロモナリが関係していたとされている。

ヴァーチュラ(Vātula)


SCP-2833に登場するカルト。構成員は全て遺伝的に同一なクローン体であり、異常な方法を用いて女性に"自身を"妊娠させる事でその数を保っている。起源は紀元前1200年以前の原始サーキシストであったカルキスト・ヴァスキであり、ダエーバイトに対する敵対心を見るに大戦以前のダエーバイト奴隷反乱時代の構成員であったかも知れない。構成員はベナレスからの手紙でも記されている通り意図的にヒンディー教徒に扮しているものの、その信仰内容はヒンディー教では無くイオン(彼らに言わせればエオム)崇拝を中心とした原始サーキシズムが変質 ─殆どの構成員はカルキスト・ヴァスキの持っていた信仰内容が経年により変化したと思しき信仰と、ヒンディー教の混合とも言える独自の信仰を持っている。その証拠に、彼等はアディ-ウム帝国をサマーディ(聖人の為の墓場の意)と呼びながらも、アディ-ウム帝国での出来事や性質の一端を把握している─ した物である。発見された場所及び言語的な特徴からその大部分はインド北西部に居住していると思われるが、ベナレス地方でも確認されている為、インド北部の全域において存在している可能性も高い。。また、ヴァーチュラは歴史上にも存在するタギー・カルトという暗殺集団から敵視されている。タギー・カルトに関するSCPverseでの掘り下げは未だ快調とは言えないが、大戦時の対アディトゥム周辺諸国の思想を受け継いでいる可能性が存在する。

ヴァシニャ(Vaśńa)


サーキシズムへの人類学的アプローチに登場するラップランド地方に居住しているプロト-サーキック・カルト。同地域に存在しているサミ人との遺伝的な近似(ハプログループN)が見られ、また生活習慣も異常な要素とサーキシズムの信仰を除けばサミ人との違いは少ない。起源は原始サーキック(=アディトゥム)の中でも古く、地理的にはラップランド地方がダエーバイトによる隷属下に至る以前から同地域に居住していた。ヴァシニャに属するサルヴィ(sarvi)村には当時一時的にアディトゥム勢力が居住していた洞窟も残されている。排他性や機械忌避は他のプロト・カルトと比べれば薄く、若者の中には電子機器を使用している者や旅に出る者も居り、またその行動自体もコミュニティ内において悪しき行いとは思われていない等、外界との穏やかな交流に(比較的)成功している例でもある。また、その為彼らは他のカルトよりも神格存在やネオ-サーキックカルトへの理解も進んでいるように見え、アルコーンの悪性についても忌避している。彼等の持つ伝承では、アディトゥム勢力は侵略的存在としてではなく、平和的な、自由を得る為に活動していた勢力として語られている。

赤き収穫の教会

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赤き収穫の教会メンバー

SCP-2133に登場し、そして指定される赤き収穫の教会は北ウラル山脈に存在する小さなプロト・カルトである。彼等の起源については「王侯と貴族の時代」「十字架に奉ずる異教徒の教会が現れた後」という証言から、中世盛期の終盤頃だと思われる。彼等について最も重要な要素である「教会」は彼等の起源より以前に存在しており、証言から恐らく他のプロト-サーキック・カルト或いはサーキシスト(カルキスト・アルカ)にとって重要な土地を保護する目的、或いは生贄として利用されていると考えられる。典型的なプロト・カルトに比べて半ば公然とした魔術の実践を行なってはいるものの、排他性や信仰への縛られ方はプロト・カルトとしては一般的

クウェートのプロト・カルト


SCP-2688に登場するクウェートのブビヤン島に存在する小規模なプロト・カルトであり、鉄器時代アッカド(紀元前1200年以前?)の信仰体系に似た信仰を持つ。紀元3世紀頃にこの土地に移住したプロト-サーキシストの子孫であり、部分的にイオン崇拝も見られる。

ネオ-サーキシズム


ネオ-サーキシズムはそれ以前のサーキシズム、つまりナルカ・カルト及びアディトゥムの実践する殺人・強姦・人肉食といった非倫理的な要素を多分に含む儀式の退廃的な魅力と、それにより得られる魔術や長寿などの"旨味"に目を付け、信仰を軽視する傾向にあるサーキシズムの総称である。ネオ-サーキシズムの台頭は起源16世紀頃のカルパティアに始まり、現在の大部分のネオ・カルトの直系の起源はこのカルパティア貴族及びそれに影響を与えた最古のプロト・カルト「ソロモナリ」にある。従ってネオ・カルトの大半はヨーロッパに存在してる。ネオ-サーキシズムはプロト・カルトが存在していたコミュニティとは地盤から大きく異なる。貴族の間で発展したネオ-サーキック・カルトにおいて、サーキシズムはそのヒエラルキーや血統重視の思想と絡み合い、プロト・カルトの様な原始共産主義は見られず、むしろ明確に優劣を意識しかつ自身らを「優」の側だと考えている。

危険性


ネオ・カルトにはプロト・カルトと異なり、現行社会への侵略を行う一派が存在している。既知の侵略行為の事例はSCP-2480で語られている。ネオ・カルト「アディトゥムの目覚め」に属するボドフェルの企みは世界オカルト連合による儀式妨害により崩壊したものの、その残滓を財団のサイモン・オズワルドが利用、局所的に肉の帝国が顕現する事となる。この侵略は財団と世界オカルト連合による対サーキック作戦であるシトラ=アキュラ計画により壊滅したものの、同様の事例がルーマニアで確認されている。この事例はネオ・カルトの性質を端的に表している。つまり、理の外の力を用いて自身らが社会の頂点に君臨せんとするということだ。しかしながらこの事例はいくつかの疑問を抱かせる。そもそも、ネオ-サーキシズムにおいて実践される儀式はプロト-サーキシズムのそれから一部を改変したものであり、プロト-サーキシズムにおいて実践される儀式と比べ有効性はいくらか失われていると推測できる。ネオ-サーキシズム台頭初期の儀式ならまだしも、台頭から長い時間が経ち、また大陸を超えて文化基盤の異なる米大陸 20世紀のボドフェル周辺で行われていた儀式の有効性は疑わしい物すらある。勿論、単純な不死性や有機物操作の魔術程度なら実践していたとしても不自然では無いが、SCP-2480で行われていた規定次元の侵略やイオンの召喚が行える程とは到底思えない。仮にそれが可能だったと仮定するならばそれ以前のプロト・カルトが何処かの時点で次元侵襲によって自身らにとって都合の良い楽園のような場所10を作っていたとしても不自然では無いし、イオンによる救済を待ち望む何処ぞのプロト・カルトが実際に召喚を行なっていたとしてもまた不自然ではない。それらが可能な儀式や魔術がプロト・カルトに伝わっていたとするならば、財団は既にその兆候を確認している筈なのだ。しかしながら実際にそれらの痕跡は確認されず、反して30世紀以上経過した現代の米大陸の、改変された儀式によってそれが可能になっている。そして時期を同じくして発生したルーマニアの事例、これらの事実はサーキック・カルトの侵略の前兆に見える。そしてボドフェル邸での一件は1つの疑問を残す。

仮説


世界オカルト連合の工作員がボドフェル邸で確認した「イオン」はタイプ:ブラックとして指定されている。世界オカルト連合に明るくない読者に向けて掻い摘んで説明すると、タイプ:○○というのは世界オカルト連合による超常存在の分類法の1つだ。タイプ:ブラックという指定は「半神」を意味しているものの、事実上この指定はタイプ:エクスマキナ「神性存在(つまりは神)」と同じ性質を指す。両者の差は「人型」かどうかであり、「人型超常存在」を表す[タイプ:色]という形式にブラックが含まれているというだけに過ぎない。そしてこの両者とその他超常存在の差は、EVEエネルギー放出に纏わる。EVEエネルギーは奇跡論体系に用いられている、殆ど全ての生きている存在と超常存在が発している「魔力」のような物で、これを収束させることで人間は魔術や局所的な現実改変を可能とする11そしてタイプ:ブラック及びタイプ:エクスマキナとその他の決定的な違いとして、前者はEVEエネルギーを全く放出していないという点が挙げられる(従って黒色をあてがわれている)。つまり、ボドフェル邸で確認された「イオン」は実際に神格存在であったということだ。順当に考えればこれはアディトゥムの復活を意味しているように見える。紀元前1200年の大戦末期のイオン及びアディトゥムの動向は定かではないが、アディトゥムの項で解説した通りアディトゥムは現在別次元に存在している可能性が高い。大戦によって負ったダメージを回復し、十分な軍備が整ったイオンが現行社会への侵略を行い始めたという事だ。この仮説の中ではイオンは既に以前のダエーバイト奴隷反乱の頃のような人格を既に失っているとする仮説が含まれている。つまり、プロト-サーキシズムにおけるイオンの「神格化」が完了し、実際にこの世界を救世(勿論これは皮肉である)せんと活動を開始したという仮説だ。

しかし、筆者はもう1つの可能性を考えている。ボドフェル邸で確認された「イオン」が実際のイオンではなく、「イオンに化けたアルコーン」である可能性だ。そもそも、サーキシズムにおける儀式・魔術の内容は判明していないものの、『人間が神に成れるのか』という疑問は残る。勿論SCPワールドに「カノンは無い」以上、『成れる』としてしまうのは簡単だ。しかし、神格存在がSCPワールドにおいて一般的に高次元の存在であるとされる点と、EVEエネルギーを放出していないという点からして人間と神格存在はそもそもが全く異なる存在であると考えられる。この点に関してはサーキシズムの原作者であるMetaphysician氏がどう考えているのかは定かではないが、もし『成れない』のならば?ボドフェル邸で確認された「イオン」ではなく、また別の神格存在という事になる。そして、その最有力候補こそがアルコーンである。アルコーンは歴史上の様々な事象の裏で暗躍し、ダエーバイト反乱運動やアラガッダの崩壊と変質、太平天国の乱 ─ これはSCP-001 ロングの提言で確認された世界再構築以前の事例ではあるが、アルコーンが実際にそういった事象を起こしうる可能性の1つとして見てもらいたい ─ に実際に関わっている。ボドフェル邸に始まったサーキシズムと人類の「戦争」は大規模な物となることが予想され、アルコーンの関与は十分にあり得る。そしてアルコーンは無貌の神ともされており、イオンの姿を真似て出現する事は造作も無い事だ。要約すると、『人間が神に成る事は出来ない』のならば、このネオ-サーキシズムと人類との不可避の戦争は、ダエーバイト反乱運動・紀元前1200年の大戦に続く、規定次元におけるアルコーンの差し金で発生した大規模戦争ということになる。そう考えれば、ボドフェル達が行った「イオンの召喚」は彼等の技量の賜物ではなく単にアルコーンにとって丁度良い顕現であった事になり、ネオ-サーキシズムにおいてすら新顔である筈のサイモン・オズワルドがあれ程の力を手にした事も説明が付く。

ネオ-サーキック・カルト

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ネオ・サーカイトの集会

ハンターの黒きロッジ(The Hunter's Black Lodge)


ソ連崩壊後にユーラシア大陸に発生した国で活動する大規模な違法組織。基本的な活動は単なるブラトヴァ(ロシアンマフィア)と変わりないものの、サーキシストの肉体変容に似た能力を示す構成員、サーキシズム魔術を使用した殺人、異常性を示す非合法薬物及びアディトゥムが使用したと考えられる大規模魔術と同じ名を持つ生物兵器の作成・売買など、サーキシズムの魔術と関連深い活動も見受けられる。事実、サーキック・カルトの女司祭であるヴォルタールを抱えており、またアディトゥムの聖人オロクの死体を保持している。宗教的な共同体ではなく、イオン崇拝を始めとしたサーキシズム信仰は見られない。

白蛆の秘密教団(Fehér Féreg Ezoterikus Rend)


ソロモナリに影響を受けたヨーロッパ全域で活動するネオ・カルト。明確な実態は明らかとはなっていないが、その起源からネオ・カルトの中でもかなり古くから存在していると推定される。ハンガリー - ヘヴェシュのネオ・カルトとの関わりを持つ。

アディトゥムの目覚め(Adytum's Wake)


アメリカ合衆国北東部に存在する北米大陸最古のネオ・カルトであり、実在の証拠は17世紀中盤から確認されている。SCP-2480で確認されたコルネリウス・P・ボドフェルⅢ世もこの会員であったとされ、ボドフェル邸はアディトゥムの目覚めの儀式場として機能していた。プロト・カルトの儀式を継ぎ接ぎした様な非倫理性にだけ目を付けた儀式や、力の獲得に基づく他社の支配など、ネオ-サーキック・カルトの典型例と言える。明記されてはいないが、SCP-2714に登場したピエール・エスコフィエ及びその父親は"北米のネオ-サーキック・カルト"の一員であり、アディトゥムの目覚め或いはその分派の可能性が高い。

ウラルの肉職人(Uralic flesh-crafters)


SCP-2430に断片的に登場する。当時ソヴィエトの一端であったGRU"P"部局との取引により、敵国(勢力)の有名人であるナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラーと一致する外見の不死身の肉サンドバッグを作成し同組織に献上。2430は後にP部局解散後にナチス・ドイツの研究機関アーネンエルベの後継である超常組織「オブスクラ(OBSKURA)」に回収保護されている。

アディトゥムの現在


「アディトゥム(Adytum)」という語は様々に使われるが、大まかな意味は
  1. 便宜上原始サーキシズムと呼ばれる、アディウム帝国で実践されたイオン崇拝を中心とした思想・儀式の体系を持つ勢力及びそれに加担した勢力
  2. アディウム帝国に存在した都市
  3. 紀元前1200年の大戦に敗北した際に丸々異次元に移動した②、或いは現在生き残りの①が居住する異次元の地点

に分類できる。イオンの異名である「アディトゥムの魔術師王」という称号は①と②の意味でアディトゥムを使用している。実際に同時代を生きていた者にとって両者の区別は恐らくそこまで気にされない物だったのだろう。強いて言うならば、②の意味として「アディトゥム」という語を使うよりは「アディウム」という語を使う場合の方が多いだろうか。①及び②の構成員は、ウラル山脈付近の民族(初期)とダエーバイト占領下に在った民族達だった。言語的としてはウラル祖語、クレタ聖刻文字・線文字A・ヒッタイト楔形文字(2095内より)等が使用されていた。現在のアディトゥム、つまり③についての各所での記述、及び発言の抜粋が以下である。

「イオンがなんらかの方法でこの宇宙的存在の支配力を強奪し、鎧のように"神を喰らうもの"の肉体を纏い、その身体から王国を作り出したことを示唆しています。」

「ゐおん様は彼の蓮華座、死せる神の胎へ帰られた。」

  • 巨像内の巻物Ⅱの記述

「荒涼とした領土、そこは失敗と堕落の創造物、死せる神々の[身体/肉]で作られた場である。」

「寺院は眠りに就き、アディトゥムの子らの復活を待つ事になるでしょう。」

「儂らの数と信仰は成長し続けておる、そしてサマーディ12の昇天まで成長し続けることじゃろう。」

「アラガッダの大使がアディトゥムから帰還した。もはや此処には狂気しか残らないでしょう。急いで離れるべきです、私も直に此処を去る。」

前3つの記録では、「アディトゥム」が何かしらの神格存在の身体の中にあることが示されている。またイオン崇拝者によって書かれたヴァルカザロンの記述では"神を食らう者"、つまりヤルダバオートの身体を使用していると言われているが、メカニトによって書かれた巻物では"死せる神々"という複数の神格の存在を仄めかす語が使用されている。後者の"神々"については、ヤルダバオートによって捕食され"死んだ"のだと捉えれば、アディトゥムがヤルダバオートによる捕食後の神々の身体を使っている事になり、ヴァルカザロンの筆者はそれをヤルダバオートそのものの身体を使用していると捉えている事が分かる。このヴァルカザロンが元版から一部改変されているらしい事を考えれば、本来の状態は巻物によって語られた内容の方が近い様にも思える。ばかたち・ゐおんはサーキシズムの源流からは離れたまた別のイオン信仰ではあり、またその為発言の正確性は保証できないものの、イオン或いはそれを名乗るある程度善良なカルキストと実際に接触しており、この発言が"宣教師"の発言から改変されていなければやはりアディトゥムに使用される神格存在は既に"死んでいる"という説が有力になってくる。そして、ヤルダバオート自身が未だ死んではいないという事を鑑みれば、アディトゥムが単なる神格存在の死体によって作られているだけに過ぎないという説もまた有力な物となる。

また、クル=マナスの堂守の発言では現時点でもアディトゥムが機能している事が示唆されている。しかしながら、財団は地球上に於いて現在その痕跡を見つけておらず、従ってアディトゥムが現在異次元空間或いは宇宙のどこかに位置しているとする仮説が有力となる。後半のその他の発言はサーキシズムに見られる救世主思想と繋がって、いつの日かアディトゥムが復活し自身らを救済するという神話・思想の典型例の様にも見えるが、カルキスト・トゥンダスは実際にアディトゥムの一員であり、その人物がこの時点でそのタイプの思想を持っていたとは考え辛く、実際にアディトゥムは何らかの方法で異次元空間に移動し、そこで復活を待ち続けているという様にも取れる。

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